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新たな次代を担う「将棋マンガ」二作品

ものの歩/池沢春人 2016-01-04発売
或るアホウの一生/トウテムポール 2015-10-07発売


2016年ジャンプコミックスの第1弾として発売した、池沢春人先生の「ものの歩(1)」。少年ジャンプ掲載の将棋マンガとして注目を集める本作は、ハッシーこと橋本崇載氏(八段)が棋譜監修を務める本格棋士物語です。
一方、トウテムポール先生の最新作「或るアホウの一生」は第1巻が15年10月発売。こちらも同じく橋本崇載氏が監修を務める、プロ棋士を目指す青年たちの物語。奇しくも同時期に1巻発売となった二作品。そしてどちらも、プロを目指す棋士たちの物語。通じるところと、異なるところを見比べて見ると、より深く物語を楽しめるようになっている二作品。ここでは、そんな二作品を色々と対比してみます。

「プロ」という単純な、けれどあまりに過酷な道のり。

新たな次代を担う「将棋マンガ」二作品画像1 将棋をテーマにした漫画ならば、プロ棋士の物語もあれば格闘……賭け将棋の物語などもありますが、この二作は「プロになるために将棋を指す人たち」の物語となっています。
プロ棋士への登竜門、奨励会所属の人物が多く登場する二作品。主人公たちも同じく、その目標は「プロになる」こと。それと同時に描かれるのは、その道がどれほどまでに険しく過酷なものなのか、ということ。奨励会員たちの苦しみあがく姿が、その壮絶さを物語ってくれます。
「今までの努力がムダじゃなかったと証明したい」。これは、二作品のどちらにも描かれている、切実で譲れない想いです。狭き門の前でしのぎを削る棋士たちの悲痛な叫びが、両作品に共通する熱いメッセージとなっているのです。

入り口に立った少年と、出口の目の前であがく少年。

新たな次代を担う「将棋マンガ」二作品画像0 一方で、この二作品は主人公の立ち位置が全く異なっています。「ものの歩」主人公の信歩はプロを目指す決意はしても、定跡もままならぬド素人。方や「或るアホウの一生」の瞬は、まさにプロ目前の三段棋士。狭い門、高い壁、手強いライバルに囲まれた修羅場の、真っ只中で戦っている人物です。
・「信じてまっすぐ一歩一歩進み、ひたすらに努力して少しずつ強くなる」そんな王道の物語を歩んでいる信歩。
・「信じてまっすぐ頑張ってきたけど、それだけじゃ超えられないどん詰まりで苦しむ」どうにもならなさにあがいてもがいて明日も見えない瞬。
道を違えているのではなく、同じことを同じように頑張っているふたり。だけど、信歩は着実に歩みを進めていて、瞬は進めない。それは、信歩が初心者で覚えることがたくさんあるから。言い換えれば、彼が今はまだ弱いから。方や瞬は三段リーグで戦う棋士。相応の実力をすでに持っている人物。けど、周りにもっと強い人がいっぱいいて、その中で勝つためにどうすれば良いのかが分からず、のたうち回っているところ。立ち位置の違いから来る二人の対比には、一筋縄ではいかない勝負の世界の奥深さを見ることができるでしょう。
言わば瞬は、信歩の歩く道の遙か先に立っている人物です。いずれ信歩にも、瞬のように壁にぶち当たってのたうち回る日々がやってくるのでしょうか? 少なくとも信歩の周りには、現在進行形でそうなっている人が何人もいる様子。彼らの苦しみを、今はまだ端から見ているだけの信歩。彼がそう志すように、いずれそれを彼自身もまた知ることになるのでしょう。

プロを目指してひたすらに励み、多くの時間を将棋に費やす彼らに、普通の青春らしきものはありません。勝った楽しい負けた悔しい、と言っているだけでは済まされない、己の存在意義を賭けた戦いに身を投じている棋士たち。遅まきながらその入口に立った信歩と、もっとも苦しい戦いの中でもがいている瞬。この二人が出会ったらどんな話をするのだろう? と、そんなことも思ってしまう程に、通じるところと異なるところの対比がそれぞれの作品をさらに魅力的にしてくれる、そんな二作品です。数多ある将棋マンガの名作に、新たに名を連ねる二作となるはず!

帯やら作中やらでネタにされてるとは言え。

ハッシーといえば二歩という覚え方をするのはやめて差し上げろ。

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ものの歩(1)
【発売日】2016-01-04
【作者】 池沢春人
【価格】¥440
ゆうパケット可
通常便:×
或るアホウの一生(1)
【発売日】2015-10-07
【作者】 トウテムポール
【価格】¥693
ゆうパケット可
通常便:×